HakuTouGin

年來自分が考へた叉自分が多少實行し來りたる處世の方針は何處へ行つた。前後を切斷せよ、妄りに過去に執着する勿れ、徒らに將來に望を屬する勿れ、滿身の力を込めて現在に働けというのが乃公の主義なのである。                      「倫敦消息

2007/05/22

そのなを

五月のあおい,空の上にあなたの名前を呼ぶ.名前はいかにしてもあなたのもとへとむかう.それは名前だから.可能な世界のもとでも可能な状況のもとでも,名前はあなとのもとへ.それは名前だから.しかしあなたは名前などではない.「あなた」も名前などではない.僕は一体誰に呼びかけるのか.誰を呼びかけるのか.

どうせじきにながながと雨期へと進む.そして入道雲がそびえ立つ.僕は季節すら知らないのに.あおいあおい,ごがつの空が高い.僕は見上げずにはいられない.日光がC繊維を刺激するだけだというのに.

ごがつの空の下であなたの名前を繰り返す.は,C繊維なぞ.東海岸のとんちきなどぼくらを妨げはしない.鈍痛,懊悩,どんとこい.名前はいつでもどこでもあなたに向かう.歴史をゆがめてもいい,人の世が滅びてもいい,火星と金星が入れ替わる世間で,僕はあなたの名前を呼ぶだろう.そのなはあなたへとむかう.「その」「あなた」を僕は知るだろう.「その」まなこをまっすぐと指差すだけ.指差すだけで.