HakuTouGin

年來自分が考へた叉自分が多少實行し來りたる處世の方針は何處へ行つた。前後を切斷せよ、妄りに過去に執着する勿れ、徒らに將來に望を屬する勿れ、滿身の力を込めて現在に働けというのが乃公の主義なのである。                      「倫敦消息

2006/05/31

The Time Of My Life

W. V. Quine, 1985, The Time of My Life: An Autobiography, A Bradford Book, The MIT Press.
クワインは1908年1月25日にオハイオ州のアクロンという都市で生まれたそうだ.「クワイン」というのは,マン島 Isle of Man とかいうアイルランド辺りにある所の名前で,おじいちゃんの代にアメリカにやってきたらしい.母親は学校の先生で,父親は機械工かなんかだっけかかな(長かったからもう忘れちった).父親はあとから起業したりして,まあまあ裕福だったのかな,でもそんなに金持ちというわけではなさそうだ.大学にしゅっと入れるくらいの裕福さ,という感じ.

小さいときから,とにかく,地理が大好きらしく,近所の地図を作って売って,小遣いを稼ぐような子供だったようだ.そのせいか,もうこの自伝はひたすら旅行の記述で埋め尽くされている.なんでも100カ国以上をまわりまくっているそうだ.ちょっと僕が思いつくような地上の土地は,どこでも行っているんじゃないだろうか.宇宙旅行があったらいったかな.そしてその地理欲求は強迫観念に近いものがある.例えば,オーストラリアと東京で講演があると,ポリネシアとかニュージーランドとか立ち寄った後,オーストラリアを出来るだけ巡って講義をし,東京で講義をしてあちこち旅行し,韓国とアラスカによってボストンへ帰る,といった具合だ.僕のような旅の嫌いな出不精な人間には考えられない.大学のときとか週末のたんびにヒッチハイクであちこち出かけていたようで,一体いつ勉強していたのか,と不思議に思う.いや,実際そんなにしていないんだろう.今では文献がアホみたいに増えて,なんだか昔とは違うんだなあ.

大半が旅の(事実的な)記述,建物や風土や風俗や食べ物や,に終始するので,正直結構読むのがたいへんだった.ずるをして数ページ飛ばすこともあった(全部で10ページも飛ばしていないだろうが).哲学ゴシップのような話は,やはり非常に面白いのだが,そういうのに出会うまではまあ大変,最後のチャプターにたどり着く喜びはあるが.例えば若きダメットがフレーゲの遺稿を見れるようとりもったり,なんだかラカンに会ったり.最後のチャプターだけ例外的に,彼曰く,'soul-searching' を嫌いだが結局ちょっとだけ書いているらしく,仕事のやり方や自分の性格について述べている.なかなかおもしろい.その内容は読む人の楽しみということで,まあ書かないでおこう.